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※このページでは、「表現者」に掲載された、当社代表の佐藤の執筆記事をご紹介しています。
 (「表現者」は、ジョルダンブックスが刊行している総合オピニオン誌です。)
2020年ICT社会 4 プライスラインドットコム (1) 2000年5月  今振り返るとITバブルの真っ只中の2000年5月、シリコンバレーに出張中の私は、所用が1日早く済むことになったのでサンフランシスコに一泊しよう、と思い立った。ちょうど良い。逆オークションサイトとして話題のpriceline.comにトライである。

 5月15日、San Franciscoと入力後、エリアの選択、ホテルランクの指定が続き、"Name Your Price" と出て指値の入力に移る。迷わず100ドルの指値。税金と手数料5ドルが別にかかるとの表示。ホテルだって空室は一銭にもならない。それなら相当割引したって泊めたほうが得である。指値でオファーをしたからには空室があれば必ず泊まる。つまり、オファーの際にクレジットカード番号を入力し、アクセプトするホテルがあればその時点でチャージされる、というルールのもとに、このリバースオークションは成り立っている。
 名前、カード番号を入力すると、「もう25%予算を増やすとすごく良いのがありそうなのだけれどどうする」というシステムからのメッセージが続く。うまくこちらの心理を突いてくる。ゲーム性もあって、なかなかのものである。しかし、ここは心を鬼にして、「いや100ドルで」と提案を拒否する。
 1時間以内にメールで返事をくれるとのこと。はて、どんなホテルになることやら、と一抹の不安。4つ星と言いながら、すごく安いホテルにかえって高く泊まるなんてことになるのでは、といろいろ考える。
 1時間後にメールをチェックすると、「おめでとうございます。XXXXXホテルに宿泊が決まりました。」という仰々しいメッセージから始まるメールが届いていた。結果は、1泊200ドル以上のホテルに泊まれた。チェックインの際も名前を言うだけでOK。部屋も全く普通の部屋である。

 ちょっとした思い付きが、IT技術と一緒になってライフスタイルまで変えようとしている。アメリカのすごさをひしと感じさせられた。これが2000年5月のことであった。
(2) その後  プライスライン社は、一般消費者が商品の希望価格を提示し、各企業が自社で提供できる価格を示して競り落とすという、いわゆる「リバースオークション」のシステムを開発。この方式で当時話題のビジネスモデル特許を取得している。
 この頃は、ビジネスモデル特許の全盛期である。コンピュータやインターネットなどの情報システムを活用し、新しい儲けを生み出す具体的な仕組みが次々と出現した。「リバースオークション」は、その中でも断トツに秀でたものの一つであった。
 プライスライン社は、このリバースオークションの対象を飛行機のチケット、レンタカーといった旅行関連にとどまらず、住宅ローン、長距離電話および新車販売、B2Bや定期生命保険、携帯電話サービスへの進出を始めた。さらに、ガソリンや生鮮食品などにまで、急速にその守備範囲を広げ始めた。

 しかし、破綻が程なくやってくる。2000年9月27日(米国時間)、プライスライン社が、9月の航空券の売上が減少したことを理由に四半期の売上は予想をはるかに下回るだろうと発表すると同時に、株は大量に取引され、42%も急落し、8ドル安の10.75ドルで取引を終えた。
 ウォール街は長い間、プライスライン社がまったく儲けを出していないということは認識していたものの、その事業が天文学的な成長率を見せていることに慰めを見いだしてきた。だが、プライスライン社が最近利益に関する警告を発表し、その成長に疑いが持たれた結果、投資家たちはあっという間に同社から手を引きはじめた。
 結局、6ヵ月間で90%近く株価を下げ、ウォール街での「人気者」から「窮地に立つドットコム企業」へ転落したのだ。

 その後次々と問題が出てくる。12月には株価は1.87ドルまで下がるが、これを受けて、プライスライン社は、従業員の約11%を解雇し、「中核業務に資源を再集中する」ことを決定、再生が始まる。
 米NASDAQのナスダック総合指数は1996年には1000前後で推移していたが、1999年には2000を突破し、2000年3月10日には絶頂の5048を実現した。このような中で株式を公開したベンチャー企業創業者は莫大な富を手にし、シリコンバレーを中心にベンチャー設立ブームに拍車をかけた。ドットコム?バブルである。その後、連邦準備制度理事会の利上げを契機に株価は急速に崩壊し、2001年9月11日のテロ事件もあって、2002年には1000台まで下落する。(*1)

(*1)Wikipedia―インターネット?バブルより
(3) 2001年5月  いろいろあったが、プライスライン社は、リバースオークションをベースとしたオンライントラベルエージェントを続けている。仕入れよりも安いコストでユーザーに販売。一見知的に見えるコンピュータからの自動配信メールが、ソフト開発の遅れから実は手作業でやっていた。株価低落の過程でいろいろな悪評が出てきた。どこまでが事実かはっきりしないところがあるが、依然としてビジネスは継続されている。
 2001年5月、アメリカ出張の折、再度プライスラインでの宿の予約にトライしたが、顧客情報の「Zipコード(日本の郵便番号にあたるもの)」の入力のところでエラーになり、その次に進めない。オンライントラベルサイトでこの現象はよく出てくることで、ユーザーをアメリカに住む人に限定しているためであるが、エラーチェックがいい加減だと我々も使える。
 クレームのメールを入れたら、早速、在住者がアメリカである人に限定している、という返事が届いた。1年前はレシートが郵送されてきたので、立て直しの一環でのコスト削減の影響のような気もする。
 さらに数日後、ユーザーサポートの満足度調査の専門会社から、懸賞つきのメールが届いた。単にコスト削減だけにはとどまらず、芸は細かくなっている。
(4) 2012年7月  あれから10年以上経つ。実は今、プライスライン社は絶好調である。2003年の売上げ、利益をボトムとして、増収増益を繰り返し、2011年の売上げは43億ドル、営業利益は約14億ドルに達している。この原稿を書いている時点での時価総額は最近話題のフェイスブックを超えている。
 「リバースオークション」というプライスライン社の大発明、そして今日まで生き残っているビジネスモデル。今現在のWEBサイトは、通常の販売の表示の形式も含め、かつてから見ると随分洗練されたものになっている。

4 アマゾン?ドット?コム (1) アマゾン物流センター 2005年4月、情報センター出版局から『潜入ルポ アマゾン?ドット?コムの光と影』という本が刊行された。フリーのジャーナリストの横田増生が、2003年から2004年にかけてアマゾンの物流センターでアルバイトとして働き、そのときの体験を書き綴った著作である。
 横田は物流業界紙記者として、トラック業者や倉庫業者と関わりあってきた。業界紙で働く間に幾多の物流センターを訪れている。その後フリーになっていたが、ある業界紙の編集者から声をかけられ、物流の現場にアルバイトとして潜り込むことを思い付く。たまたま自宅近くに日通の子会社でアマゾンの仕事を請けている日通東京配送があることを知り、兼ねてから興味を持っていた秘密主義のアマゾン、日通の物流の現場に潜り込むことを思い付く。

 アマゾンジャパンが日本でサイトをオープンしたのは2000年11月である。オープン時こそ注目されたが、著者がアルバイトとして潜入した頃には、さほど世間の関心を呼んではいなかった。実際には2003年の売上は500億円を超え、1000億円以上を売り上げる紀伊國屋、丸善に続く第2集団に入ってきていて、日に日に注文件数が伸びている頃であった。
 物流センターは、1階と2階を合わせて約16500平方メートル、アルバイトは非番の人も含めると総勢400人。著者がアルバイトを開始した日、出勤しているのは各フロア100人ずつで計200人。日通、アマゾンの社員はそれぞれ10人足らずで、アルバイトが主な戦力である。横田の配属された2階のフロアも学校の体育館が5、6個は入ろうという広大な広さであり、本やCDの入った棚が等間隔に並ぶ。本が50万点、残りの商品が50万点、あわせて100万点の商品の在庫があるという。
 ピッキング「一分で三冊」、検品「一分で四冊」、棚入れ「一分で五冊」、手梱包「一分で一個」…、と作業には厳しいノルマが課されている。1分で3冊のピッキングにかかるコストは1冊あたり5円、検品は1冊あたり約4円、棚入れは3円、手梱包は15円…、1冊あたりに支払うアルバイト料はしめて27円と、アマゾンは細かい数字を積み上げてコストを管理している。
 著者のピッキング作業は、120個の商品名が並んだリスト(ピッキングスリップ)を受け取ることから始まる。最短距離でピッキングできるようにコンピュータが計算したリストには、A11C16「ロシアについて」、A12A42「いきもの体験大図鑑」のような記載がされている。Aゾーンの通路11のCの高さの16の間仕切りの位置、というように解釈し、該当の本を探してプラスチックの買い物カゴの中に入れる。アルバイトが棚入れをする際は、間仕切りの位置は守るが本の並びには脈絡はない。
 およそ1時間半以上の時間をかけ、ようやく120個のピッキングを終え、コンピュータに必要項目を入れると「今回のスピード 1.2冊/分」との表示があらわれる。1分間に3冊がノルマだから、120冊は40分で終えなければならない。

 著者がそれまで物流センターで見てきた、けだるい雰囲気は、アマゾンの物流センターにはない。アマゾンには、ピンと張り詰めた空気がある。作業の間、アルバイト同士がおしゃべりをしている暇などない。時給900円のアルバイトにも関わらず、皆脇目もふらず一心不乱に働いている。個人の作業データは毎月集計され、ノルマに達していないアルバイトには指導が行われ、それでも成績がよくならなければ2ヶ月ごとの契約更改時に契約が打ち切られる。もちろん作業ミスも厳しく管理されている。
 毎月8日が給料日。クリスマスまでの期間は特に忙しく残業も多い。アルバイトの大半は30代から50代の男女、物流センターは慢性的人不足の状態なのでどんなアルバイトも採用する。アルバイト生活が長くなると職場の選択肢は狭くなる。50歳をすぎて居酒屋のウェーターとして働きたいと思ってもまず雇ってはくれない。しかし、アマゾン物流センターはどんなアルバイトでも採用する。
 時給900円なら1日8時間で月25日働いても月18万円。残業代は25%増しなので年末は稼ぎどきでもある。しかも残業が9時まであるときにはおにぎりが出る。10時までのときには弁当が出る。著者のまわりで一番稼いだ人は28万円。弁当を食べて帰ったらもう11時。風呂に入って寝て、朝6時起床、8時にはセンターで働き始める。その繰り返しの毎日。

 著者は鎌田慧の『自動車絶望工場』との比較をする。1970年代のトヨタ、国内では日産としのぎを削り、海外はGM、フォードに追いつき追い越せと、がむしゃらに生産台数を増やしていた時期の1季節工の視点からのノンフィクション。作業中に指を落としたり、感電したりする事故が日常茶飯事の危険と隣り合わせの作業。トヨタは肉体労働で、アマゾンは軽作業であるという違いはある。トヨタはベルトコンベアで労働者を、アマゾンは「一分三冊」というノルマでアルバイトを縛り付ける。どちらの作業現場でも仕事が細分化されていて自分は何をやっているかわからない。よって、やりがいや達成感を抱くことはできない。考えることはすっかり放棄されている。チャップリンが1930年代のアメリカを活写した『モダン?タイムス』の頃と同じである。
 それでもまだ鎌田が季節工をしていた時期、「なーや。お前、トヨタにいる気にはならんかのう」と班長が来て、本工となってトヨタで働き続ける気はないかと誘われる。ベルトコンベア労働に耐えるのなら、一生の面倒を見てやってもいい、という太っ腹な構えがあった。アマゾンのセンターにおいて、アルバイトは「時給で働くロボット」にすぎない。

(本稿は、横田増生著『潜入ルポ アマゾン?ドット?コムの光と影』 情報センター出版局 より引用しています)

(2) ロングテール  アマゾンは、インターネット黎明期の1994年7月にジェフ?ベゾスによって設立される。インターネット書店であり、顧客第一主義を掲げ、顧客へ必要なものを、安く、早く提供する事を目的としている。アメリカ国内で最大規模の書店でも取り扱っている書籍は20万点ほど、インターネット書店であればその何倍もの取り扱いが可能である。(*2)

 インターネットにおいてはよくビジネスモデルという言葉が使われる。新しいIT技術を活用して、それまで不可能であったと思われるような商売が可能となる。前々稿で触れた「リバースオークション」もその一つ、ホテルの利用者が自分が宿泊したい地域と価格を指定してホテル側からのオファーを待つというものであった。
 ある特定の分野における売上げは、売上げ成績の品目順で上位の20%が全体の売上げの80%を占めるという考え方がある。従来型の店舗を構えた販売店では、商品棚の容量や物流上の制限などで売上げ成績の良い売れ筋商品を主体に販売するよう努め、売れ筋以外の商品(死に筋商品)は店頭に並べられないことが多かった。しかし、オンライン小売店は、無店舗による人件費と店舗コストの削減に加えてITの利用による在庫の一元化や物流コストの極小化を進めた結果、普通に考えれば年に1個、またはそれ以下しか売れないような商品まで顧客へ提供することで、新しい販売機会の取り込みを可能にした。このようなITを駆使した新たな物品販売のビジネスモデルを説明する時に使われるのが「ロングテール」である。(*3)

 さらにアマゾンは強力なリコメンデーション機能を保持している。一般にこの本を買った人は他にもこんな本を買っている、というデータをもとに、アマゾンのサイトを訪れた顧客に対し、お薦めの本を提案してくるのである。
 昨今のアマゾンのサイトでは、新品のみならず中古品も大きなボリュームを占めるようになってきている。アマゾンに入り、例えば、「親鸞」と入力すると、親鸞 (上) 五木 寛之 (単行本 - 2009/12/26) 新品:1575円、との表示に続き、60 中古品 62円より、と出てくる。60 中古品、をクリックすると、マーケットプレイスからの新品中古品の一覧が出てくる。プラス250円の配送量を払えば、マーケットプレイスに出展している会社、個人から直接本が送られてくる。出展者の評判は細かくネット上に掲載されている。
 マーケットプレイスに出展しているのは、殆どが小さい古本屋である。送料の一定割合はアマゾンの取り分である。街角の小さな古本屋の店主が、なれないコンピュータと格闘しながら、黙々とデータを入れている姿が髣髴と浮かぶ。中にはつわものもいる。ブックオフに行って、これぞという本を仕入れ、自分がアマゾンで売るのである。

 流通量が増えれば、出版社、取次ぎ、書店というルートをカットオフし、直接アマゾンに納品する出版社も出てくる。同時にアマゾンの物流は書籍以外にも扱う品目を増やし今や、アマゾンのカテゴリーは、家電?カメラ?AV機器、ホーム&キッチン?ベッド、食料?飲料、……と広がっている。
 2011年のアマゾン売上高が前年比41%増の480億8000万ドル。純利益は同45%減の6億3100万ドル、営業利益は同39%減の8億6200万ドル、4兆円企業となっている。日本での売上は、詳細が明らかにはなっていないが、2009年の売上はネット上で推察されている。売上全体が3200億円、書籍が1500億円、書籍以外が1700億円とある。2010年の売上増は海外が49%、2011年は31%増なので、単純に外挿すると書籍で3000億円程度になる。おそらく書籍はそれ程には達してないように思えるが、それでも国内No.1であることは疑いようがない。

(*2)Wikipedia―Amazon.comより
(*3)Wikipedia―ロングテールより
(3) アマゾン?キンドル  アマゾンの2012年第2四半期(4-6月)の決算は、売上高が128億3400万ドルで前年同期の99億1300万ドルから29%増加した。純利益は700万ドル(希薄化後一株当たり利益は0.01ドル)で、前年同期の1億9100万ドル(同0.41ドル)から96%減少し、6四半期連続の減益となった。  続く2012年第3四半期(7-9月)の決算は、売上高が138億1000万ドルで前年同期比27%増となったものの、純損失2億7400万ドル、赤字転落である。続く第4四半期(10-12月)の見通しを4億9000万ドルの赤字から3億1000万ドルの黒字の間としている。
 売上の減少による業績の悪化になす術もなく人員削減を続けている日本企業とは大きな差である。売上は着実に伸びているのだ。その中で赤字転落をものともせず、もっと赤字になるかも知れません、と言っているのである。何と傲慢な、何と人を食った動きであろう。また始まったのだ、新しい動きが。

 2000年のころ、アマゾンは営業損失を繰り返していた。倒産説も流れる中、ひたすら新しいビジネスが軌道に乗ることを模索していた。2002年第1四半期にアマゾンはようやく営業黒字を達成、その後海外展開もあわせ、ビジネス規模を拡大していく。ひたすら、書籍の流通にこだわり続けていたのだ。書籍の流通網が整った後は、流通網を書籍以外にも拡大していく。
 今度の狙いは、大きく二つある。一つは、電子書籍の流通である。所詮、インターネット企業と言っても、入り口だけデジタルで後は自動車絶望工場の21世紀版、という分析を嘲笑うように、今度はデジタルな流通を一気に作り上げようとしている。それも自社の端末で。それが、アマゾン?キンドルの発売である。日本でも白黒のPaperwhiteが7980円で11月中にも発売される。12月には、上位機種のFire(12800円)、Fire HD (15800円)も発売される。
メッセージ
※図1:Amazon Kindle Storeより

 書籍の流通網を書籍以外に応用して今日のアマゾンを築き上げたように、デジタルな端末とデジタルな流通の応用は、音楽、映画、テレビ番組の配信である。既にアメリカでは、商品配送優遇プログラム「Amazon Prime」の会員向けコンテンツサービスを拡充しており、第2四半期中に、追加料金なしで楽しめる映画やテレビ番組を1万8000本に、無料貸し出しできる電子書籍を17万冊に増やした。(*4)
 さらに、アマゾン?キンドルの上位機種Fireは、OSがグーグルのアンドロイドであるため、アップルのiPadと市場が重なってくる。キンドルFire HDは、iPad mini の対抗機種でもある。値段はアップルの半額である。
 コンピュータ業界以外の人には、あまり知られていないが、アマゾンは実はレンタルサーバーの価格破壊をしかけているレンタルサーバー業者でもある。売上規模の詳細は公表していないが、恐らく既に1000億は超えているものと思える。

 コンテンツを書籍から音楽、映画、テレビ番組と拡大していく。とりあえずは、コンテンツの流通の制覇が第二のアマゾンの拡大期であろう。今から数年間はここに全力を注いでいく。そのための戦略的な赤字が今なのであろう。そして目標達成の暁には、サーバーに続いて、端末をも押さえにかかる。アップルの最大の競争相手はグーグルではなくアマゾンかも知れない。

(*4)日経ITproニュース(2012年7月27日付)より
6 ネットで稼ぐ  スタンフォード大学の博士課程に在籍していたラリー?ペイジとセルゲイ?ブリンによって1998年9月に創業されたグーグル社は、ベンチャーキャピタル等から資本を集め、アクセス数を伸ばしていたが、売上が殆ど無く、ビジネスの継続が危ぶまれていた。転機となったのは、2000年10月、Overtureの課金型リスティング広告を参考に開始されたアドワーズである。
 グーグルで検索をしたときに、検索結果を表示する前に一つ二つ、それと画面の右側に広告が表示される。これがアドワーズである。グーグルのアドワーズの紹介のページには、「Google であなたの商品をアピールしてみませんか」と銘打って、「どのような予算でも Google や Google の広告ネットワークに広告を表示できます。料金は広告がクリックされた場合のみ発生します。」と書かれている。
 広告を出したい会社は、どのキーワードをいくらで買うかを設定し、広告費の上限を決める。例えば、「旅行」というキーワードを100円で10万円までと設定するとする。
 パソコンに向かって、グーグルの検索窓に「旅行」と入力した人がいると、グーグルはキーワード「旅行」を購入している会社をチェックする。もし200円で購入している会社があれば、100円の広告より、200円で購入している会社が用意したテキストが優先して表示される。広告を表示しただけではお金はかからず、ユーザーがクリックしたときにお金がかかる仕組みになっている。
 この原稿を書いている時点で「旅行」を検索すると、「旅行に関連した広告」と小さく書かれた後に、

 「旅行に行くなら"じゃらん" - jalan.net www.jalan.net/
 会員登録でさらにお得!割引きにも使える《じゃらん》ポイントを試そう
 291人がこのページを +1 しました」(図2)と表示される。
メッセージ
※図2:Google 検索画面より

 よく入力されるキーワードはどんどん高くなる。実際に広告を出す側に立って試してみると、あっという間に掛け金がなくなる。まるでギャンブルのようで、堅実な市民生活を送っている人間には耐えられないかも知れない。安く効果的なキーワードを見つけ、予算を一気に使わず、まめに効果を見ていくことがキーになる。
 アドワーズに続き、グーグル社はアドセンスの提供を始める。非常にアクセスの多いホームページを開設している人や会社が、そのアクセス数の多さを利用して稼ぐための手法がアドセンスである。そのサイトに合ったコンテンツ連動型広告がグーグル社から配信され、クリックされると報酬が得られる。サイトの中味をグーグル社のプログラムが自動判定し、相応しい広告が配信されるのである。例えば、ゴルフ関連のウェブサイトなら、ゴルフに関わる広告が表示される。

 ネットで稼ぐ方法の代表的なものがアフィリエイトプログラムと称されるものであるが、グーグルのみなず、他にもいろいろある。
 例えば、アマゾン。アマゾンのホームページを見ると、以下のような記載がある。

 あなたのホームページやブログで Amazon.co.jp の商品をご紹介いただきます。閲覧者が、あなたのサイトを経由して Amazon.co.jp でお買い物をした場合、購入金額に対して3.5-8%の報酬をお支払いします。参加、ご利用は無料です。
メッセージ
※図3:Amazonアソシエイトより

 最近、流行りのキュレーションサイトのNAVERまとめ(図4)は、グーグルで検索してもなかなか体系的な情報が得にくく、人がウェブから情報を集め整理するのをキュレーションサービスというが、NAVERまとめは、その中でも急速に人気の出ているサイトである。NAVERまとめでは、アクセス数に応じた金額が一定のレートに基づき換金されページ編集者に支払われる。 このことが圧倒的な情報量の増加につながっている。
メッセージ
※図4:NAVERまとめより

 動画サイト、YouTubeにも最近、ユーザーが自らアップロードした動画に広告を入れることができ、その収入を得られるという仕組みが導入され始めた。「日本でも自分がアップロードしたコンテンツに広告を入れ、それで生活している人もいる」―Google日本法人は7月30日、YouTubeの収益化プログラム「YouTubeパートナープログラム」の進捗状況を説明した。2008年のスタート以来、2011年までの3年間でユーザー収入の総額は約4倍に向上。YouTube広告からの収入で生活費を賄っている一般ユーザーもいるという。(*5)
 アフィリエイトプログラムの特徴は、ホームページに申し込みフォームができていて、必要事項を記入するだけで誰でも始められることである。もちろん審査はあるが、直接、人と話すわけでもなく、収入はネット銀行に振り込まれることが多い。引きこもっているオタクでも収入を得ることができる。
 ネットでいくら稼げるか、ネット上にはさまざまな実例が書かれている。稀に月100万円以上稼ぐという剛の者もいるようだが、グーグルアドセンスでは5万~10万円を目標に頑張っている人が多い。アマゾンのアフィリエイトは頑張っても数千円くらいにしかならなく、NAVERまとめは最近料率の変更があったようで、急に稼げなくなったとのクレームがネットを賑わわせている。
 今はまだ金額が少ないようではあるが、今後、ネットでの物販が増えていけば、増えていくものと思える。

 かくして新しいマーケティング手法は、ネットをうまく活用して売り上げを伸ばす会社を作り、また、組織に属さず、一匹狼で生計を立てる若者を作り始めているのである。

(*5)ITmediaニュース(2012年7月30日付)より