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※このページでは、「表現者」に掲載された、当社代表の佐藤の執筆記事をご紹介しています。
 (「表現者」は、ジョルダンブックスが刊行している総合オピニオン誌です。)
2020年ICT社会 9 若者は常に正しい  「お客様は常に正しい」とか「市場は常に正しい」というのは、誰もがよく聞く言葉であろう。本当にそう思っているかどうかというと、そう考えないとやりきれないのでは、とも思う。が、「若者は常に正しい」というのは、恐らく始めて聞くのではなかろうか。「若者」に関しては、「近頃の若者は」に続いて、若者批判が始まるものである。
 「若者は常に正しい」とは、学生時代、研究室の恩師が私に向かって話した言葉である。思い返せば、この頃の私は、ろくに授業には出席せず、勉強もせず、たまに出てきては、やたら尖って、言いたい放題のどうしようもない奴であった。そのくせ、大学から離れることもできずに、その権威にぶら下がっていた。強いて言い訳をすれば、そういう学生は決して私だけではなく、結構多かったのである。教える側も、「若者は常に正しい」と考えないとやりきれなかったのでは、と思ったりもした。
 それにしても、妙に記憶に残っている言葉である。時間が経つにつれ、恩師も、諦めというよりは、真面目にそう考えていたのかも知れないと、思い至るようになってくる。
 体力がある。集中力がある。何しろ、時間がある。遊びほうけていた毎日ではあったが、年間に読む本の数を比較すると、今とは比べられないくらいに多い。社会人生活というのは、思考を停止したところでしか維持できないものかもしれない。

 その若者たちが集う街ベスト3は、原宿、秋葉原、吉祥寺である。原宿は、JR山手線:原宿駅、東京メトロ千代田線?東京メトロ副都心線:明治神宮前駅が最寄り駅。明治神宮、竹下通り、ラフォーレ原宿などがあり、若者で賑わっている。1980年前後の竹の子族、1990年代後半の裏原宿系などでは先端的流行の発信地となる。竹下通りは、ロンドンのポートベローを思わせる通りで、多くの若者が行き来し、今も世界中の若い人たちの共感を集める文化が育まれている。
 秋葉原は、JR山手線?京浜東北線?総武線?東京メトロ日比谷線?つくばエクスプレスが通っている。多様な電子関連の機器や部品を取り扱う商店やアニメショップが建ち並ぶ電気街で、「アキバ」の略称で世界的にも有名。昔は機械好きの若者が多く訪れ、今はゲームやアニメ好きの若者で賑っている。2005年、つくばエクスプレスの開業、ヨドバシカメラマルチメディアAkibaの開店で、さらに賑うようになった。産学連携プロジェクトやオフィス機能などを持つ施設「秋葉原クロスフィールド」も誕生した。
 吉祥寺は武蔵野市吉祥寺本町。JR中央線?京王井の頭線の吉祥寺駅が最寄り駅。雑誌等の住みたい街ランキングで必ず上位にランクされている。東急百貨店、伊勢丹、パルコ、丸井、西友、ヨドバシカメラなどが立ち並び、井の頭恩賜公園も近くにある。ジャズ喫茶、ライブハウス、ミニシアターなどが多数点在することからジャズやロックなどの音楽の街としても知られ、若者のサブカルチャー発信地で、多くの学生で賑っている。(*1)
 要は、ファッション、音楽、演劇。街を歩けば、てんでに工夫をこらした装いの若者が闊歩している。ゲームやアニメ好きの集う秋葉原も、コスプレしたメイドがホステスを務めるメイドカフェが人気でもある。暇はあるがお金のない若者は、工夫をこらしたファッションで自己主張をする。原宿、秋葉原、吉祥寺の新しいカルチャーは、世界の若者の憧れでもある。

 より豊かな層は、青山、銀座、渋谷、新宿のブランドショップに行く。ブランドショップは、都心の直営店、デパートに最新作を並べ、リゾート地、郊外の大手デベロッパーの手がけるアウトレットモールで一昔前の商品を売っていく。片や地方都市の商店街はシャッター通りと化している。

 ブランドの雄は、ルイ?ヴィトン。1800年代にフランスのスーツケース職人(マレティエ)ルイ?ヴィトンが創始したファッションブランドは、今や、LVMH(モエ?ヘネシー?ルイ?ヴィトン)グループとして、売上高280億ユーロ(2兆8806億円)、営業利益59億ユーロ(6609億円)の巨大企業へと変身している。
 LVMHグループは、ルイ?ヴィトン、ロエベ、セリーヌ、ケンゾーなどのファッションブランドの他、タグ?ホイヤー、ブルガリの高級時計?宝飾品、バルファン?クリスチャン?ディオールなどの香水?コスメ、ヘネシー、モエ?エ?シャンドンなどのワイン、さらにデューティーフリーショップとしてDFSの5つの事業領域でビジネスを展開している。
 地域別売上構成比は、フランスが11%、フランスを除くヨーロッパが20%、アメリカが23%、日本が8%、日本以外のアジア地区28%である。(*2)デューティーフリーショップに日本人の観光客が多数いることを考えると、日本人のシェアはかなり大きい。もっとも、最近では、中国の経済力の上昇を反映し、上海、北京といった大都市にも直営店の出店が相次いでいる。

 街に集うアクティブな若者とは異なり、ネットに埋没する無気力な若者もまた多数存在する。そういった若者の生態を描いて話題になったドラマが、2011年5月からNHKで放映された林真理子原作の「下流の宴」である。
 早稲田大学理工学部卒、大手家電メーカーの部長を父に持ち、学歴優先の教育ママの下で育つ20歳の長男翔は、無気力?無関心で冷笑的。努力という言葉を何よりも嫌い、読書もしない。面倒と感じた事に対しては簡単に投げ出し、自分から動く事を絶対にしない今時の若者の典型である。
 子供の頃から勉強させられて中高一貫の名門校へ進学したが、母由美子の過剰な期待と重圧によって高校を中退。引き籠り生活をしながら、漫画喫茶(ネットカフェ)でアルバイトをしている。パソコンのオンラインゲームで知り合った珠緒と同棲中だが、全てに対する執着を失っており、一念発起してもらおうと祖母が出した大金にすら興味を示さない。将来の夢や希望、目標も一切持っておらず、唯一の関心事はゲームのみ。他人の話をまともに聞かない傾向がある。翔の同棲相手の珠緒が、翔の母?祖母の言葉に反発し、医学部受験に挑み、合格する。翔は、漫画喫茶(ネットカフェ)で店長職を打診されるが「面倒くさい」と断り、考えを改めることは無かった。
 「努力する人の傍にいるだけで責められるようだ」と、合格した珠緒と自身に遥かな距離を感じ、別れを決意する。
 ドラマは、こういったストーリーの下で、ネットゲームに埋没する若者たち、バーチャルな世界とリアルな世界が交錯する「オフ会」、カップ麺が夕食のカップルといった若者の生態を巧みに描いていく。

(*1)ハトマークサイト:公益社団法人東京都宅地建物取引業協会の会員が保有する不動産物件情報を提供するサイトより
(*2)LVMHグループホームページより。円換算は2012年平均換算レート=102.5円を使用
10 The Game  大富豪だった父の財産を引き継いだ実業家?ニコラスは、父親が自殺した年齢である48歳の誕生日を迎える。久しぶりに会った弟は誕生日プレゼントとして、「凄い体験ができる」とCRS(Consumer Recreation Services)という会社の紹介状を渡す。その後、たまたまCRS社のオフィスを見つけたニコラスは軽い気持ちでCRSの提供するゲームに参加することとなる。(*3)
 次々とニコラスの身の回りで不思議な出来事が起き始める。CRSの提供するゲームの正体、そしてその目的も判らないままニコラスは翻弄される。CIAまで現れ、ニコラスの命が狙われる。命からがらビルから飛び降りたとき、感動のフィナーレとなる。ニコラスは、自分の誕生日のパーティの会場に立っており、皆から祝福される。体験それ自体が実は誕生日のプレゼントであった。

 1997年公開の映画『The Game』は、監督が異才デヴィッド?フィンチャー、『ウォール街』でアカデミー賞を受賞したマイケル?ダグラスが主演を努める。速いテンポで展開するストーリー、意表を突く結末、観客は釘付けになる。そして、謎の組織CRS――コンシューマー リクリエーション サービス――究極の体験提供会社とでも訳せば適切なのであろうか。特に印象に残っている映画であり、またそこに登場する奇妙な会社、CRSこそ新しい産業のモデルのように思える。

 日本が高度成長を遂げていた頃、庶民の生活も飛躍的に向上していった。生活の質の向上は、庶民に生活の物資を提供するための流通の大きな変革によるところが大きい。その流通の雄は、ダイエーと西武(後のセゾン)。ひたすら安くモノを提供するのにこだわったのがダイエーを創業した中内功である。牛肉を安く提供しようとし、既存の流通業者の抵抗にあったとき、牧場を買い、大卒で採用した新入社員を食肉の解体の専門学校に通わせたのには、社長の中内功の執念を感じる。
 テレビの値引き販売では、商品供給ルートを調べ上げ値引き販売を止めようとした松下電器と戦う「ダイエー?松下戦争」がメディアを賑わせる。ダイエーはひたすら拡大を続け、野球の球団「南海ホークス」を買収、「福岡ダイエーホークス」とし、ドーム球場を新設、ホテルをも併設する。国内だけにはとどまらず、最盛時には、ハワイ、オアフ島のアラモアナショッピングセンターまで傘下に収める。

 一方、実業家かつ政治家の父を持ちながら、学生運動で火焔ビンを投げ勘当されたのが、後に西武流通グループの祖となる堤清二である。結核に倒れ、その後父の下で池袋の西武デパートを任される。父からデパートを任されたとはいっても、当時は池袋の1店のみ。池袋西武は、下駄ばきデパートとも称され、凡そデパートという言葉から類推されるイメージとは縁遠い存在だった。
 下駄ばきデパートが火事で焼けたり、いろいろあったが、堤清二は、学生運動の仲間を次々とビジネスの世界に誘い込んでいく。「不思議、大好き」「おいしい生活」といったコピーで、豊かさを「モノ」から「文化」へと拡大していく。池袋、西武百貨店に隣接した商業施設を買収し、「パルコ」と名付け、新しい情報発信の拠点にしていく。西武は、池袋から渋谷、さらに銀座へと拡大していく。
  西武は、セゾングループと称し、アート、演劇をも取り込みながら、シティホテル、リゾートホテルへと拡大していく。流通業から列島を縦断する観光レジャー網へと拡大し、「ヤマハ」、「地中海クラブ」とも業務提携し、小笠原の無人島の土地の購入の噂も出る。

 ダイエーも、セゾンも、拡大に拡大を続けた末、バブルの崩壊、不動産市場の崩壊を機に、うまくいかなくなる。ダイエーは事実上倒産、産業再生法の適用を受け、拡大した事業は売却され、本来の流通業は、イオングループに吸収される。セゾンの方も、西武百貨店は7&iホールディングスに、西友はアメリカの大手スーパーウォルマートに、コンビニのファミリーマートは独立、不動産開発を担った西洋環境開発は多額の負債と共に特別清算された。
 中内功は既に他界し、堤清二も筆名辻井喬にて、詩人、作家として余生を送っている。ともに流通業から始まり、「生活、文化」の領域へと事業を拡大、不動産投資で失敗というパターンであった。しかし、昨今の低迷する日本からは想像できないほど、アクティブに拡大し続け、どうあれ、一つの時代を作った。
 ところで、堤清二が業務提携をした「地中海クラブ」は、この頃、独特のホスピタリティで接客をするやり方で世界中にビジネスを拡大していた。通常のホテルとゲストという関係ではなく、クラブに足を一歩踏み入れたら、そこは日常とは異なる空間といった想定で、スポーツ、レセプション、レストランのそれぞれにGOと称される専任スタッフがおり、滞在はサプライズの連続となる仕掛けである。
 創業以来圧倒的な人気が続いている「東京ディズニーランド」も、オープンに際して手がけたことは、施設内の言葉の定義、と聞いたことがある。客とは言わず「ゲスト」、店員とは言わず「キャスト」等、主要な言葉を日常の言葉とは別に定義し直したのである。弁当の持込み禁止も、滞在そのものを日常から区別するためである。さらに、子供と話すときには、自分がががみ、目の高さを同じ高さにする等、とことん接客にこだわり、従業員は何度も研修を受けさせられる。郷に入れば郷に従え、地中海クラブでも東京ディズニーランドでも、場に入った客は、日常性とは異なることを素直に受け入れ、場のルールに従う。感動しやすくなる。

 年々派手になる結婚式を見ながら、これは何なのだろうと常々思っていたが、『The Game』を見たとき、疑問は氷解。『The Game』ほど徹底してはいないにしても、結婚式こそ夫婦になるカップルを囲みながら、参加者全体が場を盛り上げる。誰もが人生に二度は、主役を努める。一度は結婚式で、もう一度は葬式。葬式では本人は演じることができないから、唯一、結婚式こそが主役である。招待客もその場をどう盛り上げるか、一緒に演じる。
 ファッションで個性を競う若者、ストリートダンスに興じる若者、芸能界を引っ張るのはAKB48、総選挙に引き続いて卒業式も。昨今の社会状況は、もう一歩のところで蠢いている新しい産業の息吹を感じさせる。繰り返される日常性とは別の非日常。お宮参り、入学式、卒業式、結婚式といった人生の節目で演じられていた節目の儀式は、リゾートで、あるいは近くの施設でときどき繰り返される体験になってきている。時間を早送りし、近未来の平和な社会を瞑想すると、次のような光景が浮かんでくる。
 日曜日の歩行者天国で、ある若者が大きな声で泣き出す。若者の演じた劇に、近くにいる別のカップルが加わる。そこで発生した小さな空間に、次々と周りにいる人が加わり、誰もが抵抗なく加わり、マイクなしで聞こえる10メートル前後の空間が小さな劇場と化している。周りを見渡せば、あちこちにそういった人だかりができている。
 街中にシアターがあり、レストランやカフェの中にもてんでに工夫を凝らしたゲスト参加プログラムが用意されていて、レンタルウェアまで用意されていて、専任スタッフがもりたてていく。芸能人養成のためのアクターズスクールは、誰もが通うスクールとなり、歌やダンスを習う。外国からの客とコミュニケーションをとるために語学スクールは今以上に人気。ICT機器が効果的に使われ、ダンスを習うときには、Kinect(*4)がうまく使われ、ロボットが力加減を手取り足取りで教える。語学のレッスンでは、Siri(*5)の進化したティーチャーが生徒を飽きさせなく、効果的に学習させる。

(*3)Wikipedia―ゲーム(映画)より
(*4)人の動きをカメラで撮り解析する技術
(*5)iOSに実装された、話しかけるとコンピュータが応える技術(Speech Interpretation and Recognition Interface)
11 新しい時代の足音が  2013年11月3日、久しぶりに訪れたニューヨークは、サマータイムが終了した冬時間入りの日であったが、それを象徴するように一段と冷え込んだ。この日はニューヨークマラソンが開催された日でもあった。1日おいて11月5日はスーパーチューズデイ。ニューヨーク市長には新しい民主党のデブラシオが選ばれた。一連の行事が重なると人はそれでなくともワクワクするもの。ニューヨークは街中が活気に包まれていた。ダウ平均も連日のように高値を更新、2008年9月のリーマン?ショックからしばらくの間、閑古鳥が鳴いたと言われているが、それももうはるか昔のことになってしまった。
 さらに駄目押し、11月7日には、ニューヨーク証券取引所に短文投稿サイトのツイッターが上場、公開価格の26ドルを大きく上回る45ドル10セントをつける。7月から9月までの四半期決算で最終損益が赤字にとどまったが、この日の終値での時価総額は250億ドル、日本円ではおよそ2兆4500億円になる。これを日本企業と比較すると、大手商社の三井物産や保険大手の東京海上ホールディングスとほぼ同じ規模となる。(*6)
メッセージ
※図1:Twitterより

 「相場のことは相場に聞け」というのが株の格言。赤字企業がなぜ、という問いは無意味でもある。この連載でもプライスラインドットコム、アマゾン、グーグルといったIT企業を見てきたが、この間、飛躍的に伸びているアメリカ企業はどれも皆恐ろしく戦略的である。例えば、グーグルの2012年の売上高は501億7500万ドル、純利益は107億3700万ドル(一株当たり32.31ドル)、日本円換算で売上げが約5兆円、純利益が約1兆円というところである。恐るべきことは、拡大の基調は全く鈍っていなく、さらにビジネスのベクトルは拡大していることである。
 この間、著しく飛躍しているIT企業の特徴は、ビジネスのベースがITテクノロジーの延長線上にあるため、よほどその領域に精通していないとビジネスモデルがよくわからないことである。ビジネスモデルは後付けでも、インターネットで飛躍的にアクセスが増えさえすれば、何かうまい収益モデルが見つかり、あるとき急に反撃に転じることができる、と言った方が正解かもしれない。
 しかし、経済規模の拡大が伴わない限り、企業も個人も出費の総額は限られているから、新たな企業は、既存の企業から売上げを奪うしかない。今はまだ、広告を主とするグーグルは、結果として、既存の広告会社から広告を奪っている。電子書籍を狙ったアマゾンは、まず、既存の物流の仕組みをとことん研究し、ネットでの書籍の販売から始めた。アマゾン、恐れるに足らず、と豪語した既存の某書店は今や日本での売上げはアマゾンに大きく水を空けられている。
 既存の会社の売上げを奪い廃業に追い込むのであるから、新興IT企業の特徴は、凡そ付き合いなど良い筈はない。アメリカがこの間の変革の主体を担っているのは、社会風土がそういったことを良しとすることも大きい。日本なら、あまり突っ張った展開をすると国税から証券取引委員会(日本版SEC)まで出てきて社会から抹殺されるであろう。

 今回、ニューヨーク滞在中の11月4日夜もテレビを見ていたら、テレビ局のニュースは皆、発砲事件のあったニューヨーク郊外のショッピングモールからの中継一色であった。現場はニューヨーク?マンハッタンから約20キロの地点にあるニューヨーク近郊最大級のモール、ウエストフィールド?ガーデン?ステート?プラザ?モール。午後9時30分の閉店時間まであと約10分という時間帯に銃声が響いた。地元警察の特別機動隊がモール内にある約300の店舗を捜索したが、容疑者の姿はなかった。店の奥に身を隠していた従業員らは外へ避難した。しばらく経ってから発砲者の遺体が発見された。自殺であり、負傷者はいなかった。(*7)
 頻繁にこういった銃の事件が起こる。だから自分たちも銃を持って、自分のことは自分で守らなければ、と考えるのがアメリカ人である。要は「力」である。「力」ある者に対抗するのもまた「力」である。銃撃事件は犯人の自殺であったが、人質をとって立てこもっても特殊部隊が程無く突入、巻き添えで死んでいく者がいてもそれはそれ、社会全体が納得ずくである。日本なら、人命は地球より重いとして、親兄弟から恩師に至るまで登場し、延々と終局が長引いていく。

 この連載で見てきたように、この間のICTの進展は、働く者の場を猛烈な勢いで奪っていく。驚くべきことに、最新の統計での日本の非正規雇用者の正規雇用者に対する割合が40%を超えた。(*8)ただでさえ職が失われていくのに、既存の職場が新しいIT企業により、また、根こそぎ奪われていく。悪いことに、日本は新しいIT企業に閉じた社会である。とすると、もっと凄まじいのが日本の未来である。
 グーグルもアマゾンも、加えるにアップルも、次のステージはメディアに狙いを定めている。メディアは日本では総務省の許認可の範疇、と思って楽観してる人がいたら、それはとんでもない時代錯誤である。一国の枠内で辻褄を合わせていると今はもうあっという間に極度の貧しさに追い込まれていく。米ソの対立の時代と言われていたソ連、ひと頃は科学技術力でアメリカを凌いでいたソ連も1991年に崩壊、1989年のベルリンの壁の崩壊から程無く国家さえ消滅してしまうのである。競争がないというのはかくももろいものなのである。
 2020年頃までには、既存の産業界は、一段と発展した情報通信技術によって、大幅な組み替えを余儀なくされる。その大きな変革は、今まさにアメリカから始まっている。しかし、その変革は、価値観を転じた新しい人種によって引き継がれていこうとしている。何と、ICT技術の変革で立ち遅れている日本で、広範な若者の間でオタク文化が開花し始めている。職にも就かず、グーグルアドワーズで生計を立てている若者、アニメオタクもいるし、コミケで食べている若者もいる。ストリートダンスに興じている若者もいる。大負けしていく企業群の中にあって、唯一の希望かもしれない。

 今回久しぶりにニューヨークに来て、およそ30年前に訪れた頃のことを思い出した。ハンバーガーショップに入ったとき、確かバーガーキングだったと思うが、ハンバーガーが1500円近くしたことに驚いた。ただ、その頃は、日本全体が明るい未来を信じ、学生は突っ張り、ビジネスマンはメイドインジャパンを担いで世界中に飛び込んで行った。私自身もコンピュータが社会を変えることを少しも疑わなかった。日本発の技術革新がどんどん進んでいった。
 昨今、1ドル80円を切るところまで行ったとき、日本とアメリカがほぼ同じくらいの為替水準にきたのではと感じたが、アベノミクスが始まり、円は2割以上安くなり、アメリカは好景気でまた物価が上がり始めている。ただ、新しい産業が育たない限り、円が安くなっても、それはひいては輸入物価の高さからさらなる円安を呼ぶだけであろう。
 第二次大戦の後、日本は廃墟の中からよく頑張ったと思う。私は、日本を解放したとしてアメリカを礼賛するつもりは毛頭なく、ヒロシマとナガサキのことをきちんと総括すべきだと思う。思想を捨て、エコノミーで猛烈に巻き返し、ロックフェラーセンターを三菱地所が買ったところまでが、日本による猛烈な戦後の巻き返しであった。
 しかし、ロックフェラーセンターの買収は、アメリカ人の魂に火を付けた。その後のバブルの崩壊はまさに日本の第二の敗戦と言っても良いのではないか。それから20年余、日本は経済的には低迷を続け、今に至っている。アベノミクスは、既存の社会システムを壊すところに本気で進まない限り、第三の敗戦というか、あるいは日本自滅というか、そのスタートになるであろう。

(*6)NHK NEWS web(2013年11月8日付)より(現在は残っていません)
(*7)CNN.co.jp web(2013年11月5日付)より
(*8)総務省統計局 労働力調査(詳細集計)平成25年(2013年)4~6月期平均(速報)結果より